“深川のお伊勢様”の魅力を地域振興へ――歴史と街への想いを聞く/深川神明宮(東京都)
深川の総鎮守であり、深川発祥の地でもある「深川神明宮」。ご祭神は天照大御神様。境内の寿老神社には深川七福神の1柱である寿老神様を祀り、お正月は七福神めぐりの参詣でにぎわいます。江東区で生まれ育った宮司の佐和橋義之さんに、「深川神明宮」のご由緒や年中行事、境内にある「神明幼稚園」のことや森下エリアの街の魅力などを伺いました。

開拓者のあつい信仰心と徳川将軍家の計らいで生まれた「深川」
——まず、深川発祥の地とされる「深川神明宮」のご由緒について教えてください。
佐和橋さん:今から430年以上前、深川一帯は土壌改良の余地のある三角州でした。養分を含んだ土が隅田川の流れに乗って運ばれてくるため、肥沃な土地だったといわれています。そこに目を付けた深川八郎右衛門という人物が、摂津国(現在の大阪市や神戸市の辺り)から一族を引き連れてこの地に移ってきました。開拓にあたり、信仰心のあつい八郎右衛門は、屋敷の敷地内に小さなお社を建て、信奉する伊勢の天照大神様をお祀りして開拓の守護神としました。これが深川神明宮の始まりです。
佐和橋さん:慶長年間(1596~1615年)の頃、江戸の守護を命じられた家康公がこの辺りを通りかかりました。近くに将軍家の鷹狩のために整備された御成街道があったため、家康公がよく通っていたそうです。家康公に地名を聞かれ「まだ地名はない」と八郎右衛門が答えると、苗字の深川を地名とするよう命じられました。これが深川という地名の起こりといわれています。昭和40(1965)年の町名変更によりこの辺りの住所は深川ではなくなりましたが、当宮を含め今でも旧深川の歴史はあちこちに残っています。
佐和橋さん:徳川家との関わりに関して、もうひとつ面白い言い伝えがあります。3代将軍家光が鷹狩の帰り道に立ち寄ったとき、深川では神明宮の例大祭を執り行っていました。何の祭りか尋ねる家光公に、鎮守の神様のお祭りだと村の人が言うと、1羽はご神前に供えるように、もう1羽は村人たちにとその日狩った雁を振る舞ったそうです。書物によると、村人は家光公からもらった雁をたいへんありがたがり、その足を大切に保存し、藁苞(わらづと)に包んで毎回の祭りにお供えしていたといいます。江戸末期まで続いていたこの御鳥講(おとんこう)という神事を復活させたいと考え、去年から鶏肉を備える神事を試みています。

——佐和橋さんは今年の元日から宮司に就任されて、権禰宜の奥様と共に神社を守っていらっしゃるとのことですが、よろしければご就任までの経緯をお聞かせください。
佐和橋さん:父が「深川神明宮」の総代を務めていたので、幼少期から神社には親しみがあり、神主の仕事にも興味がありました。大学卒業後は教育業界に就職しましたが、やはり神主になりたいと思い、28歳のとき一念発起して國學院大學に入学しました。そこで神職課程を修了して神主の資格を取得し、卒業後は「富岡八幡宮」や調布市にある「布多天神社」で修行を積みました。そして前宮司の娘さんと結婚して「深川神明宮」に移り、宮司となりました。

——神社の年中行事にはどのようなものがありますか?
佐和橋さん:どこの神社もそうですが、最も大事な行事は例大祭です。神様に最も縁のある日に執り行うもので、「深川神明宮」では毎年8月17日になります。最近は参列者の便宜を図って前後の土日になることもありますが、基本的には天照大神様に縁のある17日に行います。3年に一度の本祭りには、総代の方々が麻の着物に袴という正装で参列し、華やかな衣装をまとった子どもたちによる稚児行列や宮神輿(みこし)の巡行が行われます。最終日の3日目には各町から12基のお神輿がすべて繰り出し、町中を練り歩きます。このときに沿道から盛大に清めの水をかけることが有名です。
本祭り以外の年に行う陰祭りでは、すべてのお神輿が出ない代わりに境内にある倉庫内のお神輿をご覧いただけるようにしています。また、高森地区を中心に子ども神輿だけが練り歩く小規模な巡行を行います。

佐和橋さん:2月の節分祭も人気があります。近隣の企業が協賛してくださっていて、文具メーカー「レイメイ藤井」さんの天体望遠鏡など豪華景品が当たるんです。また、6月30日の大祓は境内で行う「深川森下朝顔市」と同日開催で、多くの人でにぎわいます。フランクフルトや金魚すくいなどの屋台も出ますし、近所の小学校のブラスバンドの演奏、コーラスやダンスなどの出し物もあります。その後に茅の輪くぐりで身を清め、無病息災を祈念します。1月1日から7日まで寿老神をご開帳するお正月の七福神巡りは、当宮の行事というより深川の年中行事ですね。

地域住民の要望に応えて作った幼稚園は創立75年を迎える
——隣接する「神明幼稚園」について、概要をお聞かせください。神社での活動もあるとのことですが、どのようなことを行っているか併せてお聞かせ願えますか。
佐和橋さん:町が子どもであふれ返っていた第1次ベビーブームの頃、子どもを預けられる場所を求める地元の声に応じて、先々代の宮司が設立しました。今年で創立75年になり、現在は先代の宮司が園長を務めています。学校法人化したので運営は別ですが、「深川神明宮」の教化活動の一環ともいえる位置づけの幼稚園です。
佐和橋さん:園児数は約60人で、3、4、5歳児がそれぞれ約20人ずつ在籍しています。少人数で見られるよう10人クラスにしていますが、大人数の方が良い活動は2クラス合同で行うこともあります。夫婦共働きのご家庭が増え、お弁当を作るのが大変と感じられる方も多くなってきたので、令和7(2025)年度から希望者に週4回の給食を提供しています。現在は8時15分からの朝預かりと17時までの預かり保育を行っていますが、預かり保育の利用も増えているので、預かり保育の時間をもう少し伸ばそうかという話も出ています。

佐和橋さん:毎朝、お参りしてから登園するのが園児の日課で、子どもたちは御社殿の下にある園の前から神様に向かって「正直な良い子になりますように」と言って頭を下げています。毎月お誕生日を迎える子どもたちでお参りをするほか、大祓のときには子どもたちが思い思いに絵を描いた特製のカラフルな人形(ひとがた)を作ってもらって茅の輪くぐりをしています。ささやかなことですが、こうした活動で礼節や感謝の気持ちを学んでもらえればと思います。
——地域の住民の方々や、団体・施設と協働して取り組んでいることがあれば教えてください。
佐和橋さん:大祓の茅の輪は、実は「神明幼稚園」の園児のお父さんを中心とした有志の方々が作ってくださっています。また、総代寄付といって氏子さんから毎年寄付金を集め、氏子地域や被災地の復興などに役立てていただいています。令和6(2024)年には地震と豪雨があった能登地方に、戦後80年となる令和7(2025)年には「東京都慰霊堂」に寄付をしました。

——今後神社として取り組んでいきたいことや力を入れていきたいことは何でしょうか?
佐和橋さん:「深川の地名発祥の神社」であることなど、当宮についてもっと発信することで地域のブランド力につなげ、素敵な町であることをアピールしていきたいです。ご存じかと思いますが、神宮(伊勢神宮)は20年に一度すべてを新しく作り直すご遷宮を行います。当宮は、昭和43(1968)年の御本殿竣工の際、神宮から撤下された鏡・太刀・盾をいただきました。鎮座400年の折には、第61回ご遷宮で解体された御社殿の柱をいただき、儀式殿の玄関に飾っています。また、第62回ご遷宮の際にも撤下古材をいただいています。こうした神宮とのご縁もより多くの人に知っていただけるようにしたいですね。
思いやりにあふれる街「森下」、高い交通利便性も魅力
——お宮から見て、住民の方々の印象や住みやすさなど、まちの印象はいかがでしょうか。
佐和橋さん:まず、森下のまちは人が親切ですね。マンションが増えて近所と付き合いがない方も多い時代ですが、この辺りにはまだご近所付き合いや助け合いの精神が残っています。幼稚園でも、お迎えに行けないお母さんの代わりに近所のお友だちが迎えに来ることもよくあります。そういう付き合いのベースには、餅つき大会やスイカ割り大会など地域のイベントが多いことがあるでしょう。町会がしっかり機能しているので、さまざまな催しがあちこちで行われているんですよ。昔ながらのイベントだけでなく、3月下旬に深川芭蕉通りで行われる「常二桜まつり 隅田川おでかけマルシェ」のような新しい縁日も人気です。
佐和橋さん:そして、交通の便が非常にいいです。「森下」駅には都営新宿線と大江戸線が通っているので、「新宿」や「六本木」まで1本で行けます。大江戸線は終電の時間が遅いので、帰りが遅い人には特に便利かもしれません。ちょっと歩けば「清澄白河」駅から半蔵門線にも乗れるので、渋谷や大手町へもすぐです。「森下」という地名や駅名こそ、あまり広く知られていませんが、便利で住みやすいですね。
——お宮から見た森下エリアの魅力やおすすめスポットを教えてください。
佐和橋さん:深川芭蕉通りの桜と小名木川沿いの桜がきれいです。「森下公園」も子どもを遊ばせるのにいいところですね。遊具が最近新しくなって、タコを模したすべり台ができました。土日の昼間に行くと、この町にもこんなに子どもがいるんだ!と驚くくらいたくさんの子どもが遊んでいますよ。
佐和橋さん:伝統あるお店とモダンなお店が併存しているのもこのエリアの魅力です。古くからあるところだと「桜鍋 みの屋本店」、大衆居酒屋の「山利喜 本館」、「元祖カレーパン カトレア」などがあります。新しいところだと、おしゃれな古民家カフェや、深川芭蕉通りの向こうにあるコーヒーショップ「iki Espresso」などが人気ですね。

——最後に、これから森下や清澄白河エリアに住みたいと考えている方々に一言お願いいたします。
佐和橋さん:コーヒーの街である清澄白河の延長線にあるので、おいしいコーヒーショップもありますし、芝生が広がる「清澄公園」や「都立木場公園」にも自転車で15分くらいで行けますよ。地名や駅名は少々マイナーですが、自信を持って非常に住みやすいところだと言えます。こちらにお引っ越しされた際には、ぜひ当宮にもお立ち寄りください。

深川神明宮
宮司 佐和橋義之さん
所在地:東京都江東区森下1丁目3-17
電話番号:03-3631-5548
FAX番号:03-3631-5564
URL:https://www.fukagawa-shinmei.com/index.html
※この情報は令和7(2025)年7月時点のものです。
“深川のお伊勢様”の魅力を地域振興へ――歴史と街への想いを聞く/深川神明宮(東京都)
所在地:東京都江東区森下1-3-17
電話番号:03-3631-5548
http://www.fukagawa-shinmei.com/








